サントアレックソの子供カラオケ大会 |
■青年海外協力隊の方と話す機会が以前ありました。その時は「へーそうなの」で聞き流していました。それは「協力隊員して開発途上国で活躍した仲間が期間を終了して帰国した後に潰れてしまう」という事でした。私は「潰れる」と表現した若い隊員の「現地での苦しさ、辛さの代名詞」と軽く考えていたわけです。
■話が飛んで、つい最近世界一周旅行から戻った日本館顧問のジョン・クルーズ氏が「私達から見ると、表現できないほど貧しい国がたくさんあった。本当に何も無いのだから表現できない。しかし我々が思っている貧しさを貧しいとは思っていない人々も沢山いる。なぜなら、何が裕福なのか、幸福なのかの目安は、我々とは全く異なる場合が殆どだから」と語ってくれました。
■AHANリオデジャネイロ、日本館ブラジルの支援講習会のためブラジルを訪問してきました。ここ数年AHANリオデジャネイロ、日本館ブラジルのAHAN本部認定指導員であるルック・リオニ先生が活発なAHAN活動を展開し、また日本館本部もその活動を強力に支援している為、私のブラジル訪問も頻繁になりました。その活動については「ブラジルAHAN活動報告」をご覧下さい。
現場で構想を確認する筆者とリック・リオ二先生 |
■今回の訪問は支援講習会の指導の他にも大きな目的がありました。それはリオから1時間ほど田舎に入ったサントアレックソにある「お帰り道場」の施設を充実する為でした。この道場はリオ近郊の合気道場の指導者が定期的に集まり、互いに稽古をしているAHAN道場で、其々の指導者のバックグラウンドは全く異なります。
■このプロジェクトはAHAN道場の6千平米の用地に日本庭園造園と宿泊施設建築を2007年を完成目標に進めるというもので、今回は日本庭園の造園工事が始まりました。将来は合気道に限らず多くの人々が訪れる事の出来る施設を目的としています。
このプロジェクトへの日本館AHAN本部からの支援の特徴は「経済的、物質的な支援」ではなく「将来独立、運営を可能にする為の支援」にあります。
「お帰り道場」のある町は以前、ブラジル最大の縫製工場があり、最初の鉄道も敷かれ、随分繁栄した時期もあったそうですが、今ではその頃の大きな工場も荒れはて、高校を卒業をした若者達の失業率も高く、若い元気な青年たちが此れといった仕事も無く生活しています。(しかし純粋で素直な若者達です)
■こんな状態の田舎で「合気道」の道場を開いても生徒などは集まりません。週末に集まるリオからの指導者達と近所の子供達だけでも「お帰り道場」が維持出来ているのは、所有者のベネデテーさんとマルコ君夫婦がリオでそれなりの仕事を持っているからです。
■しかしこれだけ多くの若者達がおりながら地元の門下生が少ない、何か方法は無いものかと考えたのが「事業の展開」でした。地域に密着した活動を展開し、利益を共有する方向が望ましいと考えたのです。これまで日本館が行なってきた経済的、物資的な支援方法は「自立運営」には結びつかないどころか、逆効果のケースが有ったからです。
■日本館本部指導員のスコット・オイルソンさんは以前グアテマラで小学校建設などのボランテアなどをした時があります。その時の話としてこんな話をしてくれました。「現地の方々に薬をただで配っても一回くらいは使うけど、その後は棚の上にあげて使わない。しかし多少お金を取って渡すと使う。勿論そのお金は活動で還元しますが」と。
■AHAN活動を展開してるうちに私共もそんな点に気が付き、サントアレックソのプロジェクトはAHANの新しい支援活動方法のテストケースでもあるわけです。
■サントアレックソの日本庭園造園は道場の近隣の若い人々に「一緒に何かやろう」「あなた達のこの町に何か作ろう」という啓蒙から始めました。「地域の為に行えばそれが将来道場の基盤となる」と云うAHAN活動の基本理念が地域に受け入れられるか、私にとっても大きな賭けとなったわけです。
完成イメージを伝える為、箱庭を造る |
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■雨の多いこの季節、地域長老の一声で近くの農場から何トンもある岩の掘り出しの許可を無償で貰い、私とルック先生は古い重機械とこのプロジェクトの一歩を踏み出しました。勿論地元の人々は、私達が行おうとする事が全く理解できなかった様で遠巻きに見ているだけでした。
■やがて大岩を相手に苦戦している私達に一人、二人と加勢してくれるようになり、数日後には15名余りの人々が黙々とこの仕事に加わってくれました。特に若い人たちが「大きな日本庭園が我々の手でこの町に作る事が出来る」といって小雨の中、休む事無く頑張ってくれたのには大いに勇気づけられました。
■作業終了後は積極的に地域の大人たちと交流を持つため、近くの酒場に陣取ってビールを飲み交わしました。「なんじゃい、このオリエンタル」とでも言いたげな顔で見ていた人々も数日で大変に力強い仲間となってくれました。
■長老が「貴方のプロジェクトによって若い者が活気付いて感謝している」といって「そうだな、みんな!」と声を掛けてくれた時には疲れも吹き飛んでしまいました。
解説、地元の長老達と |
■今回の作業で最大の問題は、50余りの大岩と重機をどうやってブロック塀で囲まれた敷地内に運び込むか、でした。道路に面した塀は壊すには立派すぎで足踏みをしていましたら、またしても長老の出現。隣の地主に掛け合い、重機を大きな門から入れて境界にあるブロック塀を壊して良いと言う朗報を持ち込み、感激する我々を横目に、長老自信が鏨とハンマーでさっさと壊してくれました。湿地となっていて踏み込むと膝まで埋まって、助けが無ければ足を抜けない状態の中で、水を抜き、ケーブルを使って大岩を造園地に引き寄せる事が出来た蔭には、若いとき重労働経験のある大人たちが、泥だらけになって働いてくれた事によります。
ブロック塀を叩き割る長老 |
倒した塀から重機がはいる |
作業は大穴を掘る事から |
中和剤に石膏を撒く |
植木を入れるまでになった池周辺、地盤が落ち着くのを待つ |
■そして第一期工事12日間は過ぎました。道場横の小さな庭と、200坪余りの堀を作り、岩の設置を終了しました。
■重機の使用料、大型ダンプ15台余りの庭用の土や小石、工事用具、工事に参加した道場指導者達の食費、そして働いてくれた人々への給与など、工事費用一切は日本館AHAN本部が「町の若者達の将来のため」そして「合気道が根付くため」に支出しました。
■一月には第二期工事に入り、庭の完成後、敷地内にモンゴルの伝統住居である大型の「ゲルテント」を10軒設置し、訪問滞在者の受け入れ体制を整え、食堂を整備し、その収入によって道場の運営が出来る施設とします、その運営維持のためスタッフ15名ほどを採用予定です。スタッフは原則として合気道を稽古する現地の若者から採用する事にし、指導者を育てる事も目的としています。
■また施設には近隣の若者達の為に、現在日本館で勧められている中古コンピューターリサイクルキャンペーンからコンピューター10台を設置し、その使用法なども指導するほか、過去には縫製の町であり縫製経験者も多くその分野を生かしたプロジェクトも展開する予定です。
■この施設は、AHAN活動に賛同する全てのブラジルの合気道家に提供するのであって、日本館の支部のような存在とする事が目的ではありません。
バックグランドの異なる多くの合気道場の指導者が互いに認め合いながら、供に研鑽を積むユニークなこのグループに対して支援をしているだけなのです。
みんな力いっぱい働いた |
■この文章の書き出しで協力隊員、そして世界旅行を終えたジョンさんの話を書きました。私は今回、サントアレックソの人々と汗だらけ、泥まみれになって働き、隊員が言った「潰れてしまう」とはの意味を感じ取りました。それは決して「不満や辛さ」ではありません。自他共に認める「経済発展を遂げた日本」に生れ教育を受けた協力隊員が開発途上国で得た体験は、「満足感、幸福感とは何か、生きることの価値観は」などという大きな疑問の中でのコンフューズであって、日本に帰国後、日本でのライフスタイルに馴染まない事を述べていたわけです。
■私はブラジルから、本部のあるデンバーに戻り数日後にAHAN認定指導者研修の為、メキシコとアメリカの研修者を同行して日本へ向かいました。
■この旅は、T-シャツにショートパンツ、素足で泥だらけになって働いてくれたサントアレックソの若者達と、頭から靴まで10万円は下らないと思われる「アソビ着」に包まった日本の若者達を否応なしに比べる事になってしまいました。このまま日本は何処まで行くのか、繁栄とは裕福とは満たされるとはーー。協力隊の若者が「潰れる」と表現した意味が私にも十分理解できました。私はサントアレックソの人々の生活の中に本当の価値観を捜せる様な気がしました。
慰労会の日、僅かなボーナスでも喜んでくれた。 |
■サントアレックソの若者達が一つの目的に向かって立ち上がった事は今回の大きな収穫であると考えています。また大人たちが率先して助言や手伝いをしてくれた事にも大きな意義があったような気がするのです。この事業を業者に発注していたらこの地域との触れ合いは存在しなかった事でしょう。
■合気道を「世界の日本武道」とするのであれば、日本の物差しばかり当てずに、各国の国の事情に合った柔軟な姿勢で臨み、さらに「地域への貢献」も含めた道場の有り方を考える必要があると私は常に訴え、日本館はその実践を続けています。
足を豆だらけにしての奮闘、ルック・リオ二先生 ご苦労様 |
■「地域への貢献あってこそ道場は存在する」日本館の活動主旨に賛同し、今回のプロジェクトに立ち上がった多くの方々に敬意を表するものです。最後になりましたが、AHANリオデジャネイロ、日本館ブラジルのルック・リオ二先生の献身的活動に深く感謝するものです。
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