館長コラム◆◆  

忘れてならない事
 「米国ARIGATOU和太鼓コンサート」公演を前に
 

 現在、東日本大震災被災地では被災者の方々が震災後2度目の冬を過ごしております。今年は例年より厳しい冬の中、日本国民一体となった支援復興が休むことなく続けられ、悲しい現実の中であっても希望を見出そうと立ち上がる多くの被災者の方々の姿をネットや当地日本TVで知る事が出来ます。
 昨年3月11日の地震発生以後、力強い被災地からの復興のニュースが届くなか、震災直後のあのような冷静で秩序ある行動は世界に大きな感動を与えましたが、何処にその源があるのか考えてみました。
 この地域には農業や漁業など気まぐれな自然相手に生活の糧を求める人々が多く、厳しい冬や過去における多くの自然災害を克服した経験も豊富であった事、また住民が統率されて、一体となって行う季節ごとの多彩な祭りに見られるように、土着信仰を含めた神道や仏教思想を基とした自然への潜在的畏敬の念があり、それがあのような冷静さと秩序を維持させたのだと考えました。自然のなす災害を神の成す災いと捉える日本人独特の精神文化は無意識のままに脳裏の奥深く育まれていたのでしょう。いずれこの地域の人々はさらに世界の人々を驚かす復興を遂げる事と信じています。
 
 今年、2012年3月11日、米国日本館は多くの方々の協力をもとに、米国コロラド州のコロラドスプリング市にあるピーターソン空軍基地などで和太鼓のコンサートを開きます。この地には主要米軍基地や米国空軍士官学校もあり、今回の「オペレーションTOMODACHI」でも重要な支援作戦基地となりました。
 この和太鼓コンサートには、日本の長野県松川村在の和太鼓集団「信濃国松川響岳太鼓」を招聘、国際交流基金助成事業として実現されます。企画は米国日本館総本部(501(C)(3)Cross Cultural Federal Non-Profit Organization本部、コロラド州デンバー市)で「ARIGATOU和太鼓コンサート」と名付け「オペレーションTOMODACHI」さらには支援してくださった多くの米国民の方々に東日本大震災被災者に代って感謝の心をお伝えするのが目的です。
 松川響岳太鼓は、これまで米国日本館の人道支援、文化交流活動に賛同し、三度のアメリカ公演を始めとして、ブラジル、コロンビア、トルコ、アラブ首長国連邦で公演の成功を収め、米国日本館の国際活動に大きな貢献をしてくれております。
 
 今回の東日本大震災における米軍の活躍はすでに多くのメディアで紹介されているので、この稿で多くは埋めませんが、要約しますと、まず、日本の震災発生僅か6時間で被災地域の上空を中心に100機以上の戦闘機などが飛び、二日後には米空母「ロナルドレーガン」から飛び立ったヘリコプター群による緊急食料支援が始まりました。以後、全軍挙げての支援作戦「オペレーションTOMODACHI」を展開してくれました。極めて単純な発想ではありますが、空母を10メートル動かし、輸送ヘリを一機飛ばすのにどれだけの金が掛かるのか、それを考えると、今回の作戦における米国の支援は単に日米同盟などという政治的なものではない、米国人の博愛精神がなさしめた行動の一つと私は考えます。現にこの作戦と同時に、アメリカ社会では震災支援のための様々なキャンペーンが展開された事は報道の通りです。
 震災発生当時、私の主催する米国日本館では過去における支援経験から「今回の米国における支援活動はやや過熱気味であり、少し時間を置く必要がある」との判断から今日まで「我々がやれる事、そしてやれる時期」を模索していました。兵法で考えれば全軍を一時期に消耗する事はふさわしい事ではなく、こういった長期戦には二次軍はもとより後方支援部隊、さらには他の国々などの通常支援など全視野を見据えての行動が必要と考えたのです。事実、私どもは、震災後もデンバーにおける路上生活者食事支援を定期的に行い、海外においてはフィリピンミンドナオ島にAHAN教育センターを建設、タイのミヤンマー国境近くにミヤンマー難民孤児のための孤児院「ビレーハウス」を建設、完成させました。その間においても東日本大震災支援のために有効な支援を考え、この企画に関しては昨年8月から準備に取り掛かっていました。


 米国日本館はこれまでの世界各国での支援経験から「支援を受けて感謝の乏しい国や国民は新なる発展や復興は望めなく、残念ながら依存型の生産性の無い状態に陥るケースが多い」との考えを持っています。これは世界の支援団体の共通する思いでもある事でしょう。もちろん、日本がそういったネガティブな評価にさらされる事はどうしても避けなくてはなりません。お世話になった事には感謝をし、手助けを受けた時には何らかの形で後日お返しをする、これが日本人の誇る道徳感の一つでもあるのです。
 東日本大震災被災地の方々そして日本国民は世界中からの支援への感謝を決して忘れているのではありません。しかし現在の状況下では感謝の気持を直接伝えるのは不可能に近く、今日もまた、この一瞬にも傷ついた心を覆いながらも「復興に邁進することが精一杯の感謝の表現」である事を心に秘めて再起に努める多くの被災者の気持を世界の皆様にご理解戴きたいのです。
 米国日本館はこういった状況下にある被災者に代わり積極的に感謝の心を海外に伝える事、日本人の「礼の心」を伝える事も大切な被災者に対する後方支援活動であると考えて、今回のコンサートを企画しました。ピーターソン空軍基地以外にコロラド州デンバー市のデンバー大学での公演では支援感謝公演と同時に、100年以上の歴史がある貧困者支援施設「デンバーレスキュミッション」支援、ニューメキシコ州サンタフェ市での公演は支援感謝と小児癌支援センターへのチャリティーコンサートをかねて行ないます。
 今回は国際交流基金からの一部助成金援助はあるものの、このプロジェクトは被災にあった方々、そして多くの日本人の心の奥から湧き出た感謝の行動であり、米国日本館の企画に賛同下さった篤志家やボランティアの支援が支えとなって実現できました。日本、米国のご支援者、団体各位に篤く感謝申し上げます。

 震災を免れた日本国民である私たちが忘れてはならない事、それは
   大震災の教訓
   多くの被災者が再起するまで長い時間がかかる事
   世界がこの震災に多大な支援をしてくれた事

一人でも多くの皆様がこのコンサートにお集まりいただくようお誘い申し上げます。
 


                        
                          米国日本館AHAN
                       館長 本間 学 
                          2012年2月1日記
                        

 


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