館長コラム◆◆  

贋金作り」はどちらか?

 
 合気道を稽古して己はポジティブな成長をしたと公言して憚らない人には申し訳ないが四方投げや小手返しができて人間が変わる様では「錯覚」といえる。
ましてや精神的境地に至ったと思ったら「稽古」の文字の意味する事、とくに「稽」の文字を仏教辞典に探ったらその思いは引き下がることであろう。
 ところで、「錯覚」に陥っているのは一般稽古者より高段指導者に多いようで、唯一「指先呼吸投げ」が持ち技となって、忠実な門下生がわずかな指の動きに合わせて必死に飛んでいく事を「己の力」と錯覚し、その「錯覚」が肥大し「裸の王様」となって世界を歩いている指導者も多い。やがてその裸の王様たちが常識を逸した行動を平然と行うようになる。
 私には「武道は人間が創ったものであり武道が人間を創ったのではない」という持論がある。裸の王様たちが合気道を蝕んでいる。世界での健全な合気道の発展など望めるわけが無い。今回はこの裸の王様たちの紹介をしたい。
 
 私はこれまで40数カ国70近い道場をまわり稽古指導をした。米国ロッキーの麓、デンバーにあるインデペンデント道場の創設者としてあらゆる合気道グループと関係を持ってきた。私はこれだけ多くの合気道家と交流を持っておりながら、すでに組織に属している道場の「日本館加盟などの組織化」というのは一切しない。米国内ですら日本館合気道を稽古できるところはコロラド州デンバーの総本部道場だけである。組織を維持しその潤滑のための組織ルールがいつの間にか拘束するためのルールに変化し必要以上の上下関係を作ってしまう。私は拘束もしないし、されたくも無い。それでは支部の無い道場がなにゆえ総本部なのか?これは流派団体を超越し互いに交流を持つ合気道家の集まり、とくに人道支援の啓蒙活動に熱心な世界の合気道家の総本部を意味しているだけである。それが各国のAHAN日本館である。ルールたるものは「AHAN活動をする事」以外ない。
 
 私の海外訪問指導の目的は単純明確「訪問国の方々と合気道を共に稽古しその国の国民性、文化習慣などを学び自己の体験的知識としたい」からである。合気道はいわば試薬で、訪問国でその国の合気道家に同じ合気道試薬をはりつけてどういった反応が出るか、合気道に対する考え方とお国柄人柄が実によくマッチしその国を知るのに実に役に立ち同時に自身の価値判断も幅広いものとなる。当然、寛容の幅も大きくなり自分自身も幸せとなるのである。「この素晴らしい合気道を世界の多くの人々にーーそれが生涯の努めです」そんな大それた気持ちなど毛頭ない。
 私は武道家としての自己修行と捉えて海外に出ている。もちろん一方的に押しかけるわけではない「本間はいかなる合気道団体流派にも所属しない独立指導者」という事を告げてから招聘に応じている。また指導滞在費というものは一切受け取らない。主催者が講習費を集めれる国の場合はその講習費から会場費などの経費を差し引いた残額を講習会閉会のときに寄付対象となる代表者に直接寄付するように事前に同意を得ている。もっともそんな国は僅かで「支援活動」という事で殆どが持ち出しとなっている。私はこの支援金を「授業料」と捉えている。金銭だけではない価値観を僅かの授業料で得ることが出来るのである。
 しかしこういった条件付で指導に出かけても敏感に反応する者も多い。しかも独立道場の一合気道家の私に対してである。
 一例として紹介するがこれは以前、合気会本部国際部の某氏が私が訪問した国の合気道家に送ったメールである。ちなみに私は他の道場の門下生に日本館の免状などは発行していない。

「Please note that Aikido is a Japanese traditional culture which has an unique system and rules with Doshu's exclusive authority and responsibility being the core of the system. To legitimate and award Dan/Kyu grades is Doshu's exclusive authority. If some organization or someone issues Aikido Dan/Kyu cirtificate, it means violation and denial of Doshu's authority, which can be compared to producing fake money in a nation. Mr. Gaku Honma is the one who corresponds to this case.(原文のまま)
合気道は道主が独占的権限と責任を持ち、その中心に位置するユニークな仕組みを持つ日本の伝統的文化である事を理解していただきたい。公式に段位/級の認定を行うのは道主の独占的権限である。他の団体(合気会以外の団体)、又は或る者(道主以外の者)が合気道の段位/級を授与する事は違反行為であり、道主の権限を否定する事であり、これは一国の通貨を偽造している事となんら変わりがない。本間学氏はこのたぐいの人物である。」

 まことに恐れ入ったものである。哀れとしか言いようがない。私は開祖の合気道やその団体である合気会を非難した時はない。ただしその組織の中でうごめく人物たちの事を取り上げ過去に文章とした時はある。さしずめ某氏のような人物たちである。出会ったときも話したときも、私の正しい名前のスペルもわからない者に「贋金作り」として紹介される覚えはまったく無い。腹が立つどころか、なぜ一人の合気道家に対し世界を舞台とする合気会本部国際部の者が「贋金作り」とレッテルを貼り付け公言しなければならない事情が合気会内部に存在するのかの方が大変に興味があり長期にわたり注意を払って情報を集めた。(当時ネットを通して「本間贋金作り」は一瞬にして世界に流布された。犯罪である)

 いま合気会合気道は世界中で多くの問題を抱えている。そして多くの道場や合気道家がその組織を離れている。ヨーロッパなどにおいては凄まじいものである。また各国独自の連盟も必ずしも合気会の組織下にある国際合気道連盟には加入せず独自の運営活動をする国々やあからさまに対立する国も存在する。
 道主などの講習会に「数千人集う」と大見出しを入れてもそれは「参加者」であって実際の合気会の門下生の数ではない。某氏が断言する合気会合気道以外の「贋金つくり」の合気道家によって支えられていると云っても過言ではない。
 担当省庁や支援団体へのアピールのために掲げる「数千人集う」の大身出しを助けているのは実は「贋金作り」たちである。開催国の主催指導者は「何でも良し」で、少しでも多くの人数を集めて評価を得ようとする。同時にそうでもしなければ維持できないほどの経費が掛かるのである。「師範が帰ったら火の車」笑い話にもならない事実をいくらでも聞く。急速に進む合気会離れは(同時になにも知らない新人も多く入るであろうが)某氏のような無策な人間たちによって引き起こされている。いくつかの例を挙げてみよう。

JICA(ジャイカ=独立行政法人・国際協力機構) の応募規定に沿って応募したシニア海外ボランティア(一般的にシニアJICAと呼ぶ)といわれる合気道有段者を合気会で講習を受けさせたのち世界に派遣、親方日の丸をバックに現地国指導者や既成組織との協調行動を無視し、その派遣国の既成組織すら乗っ取る覇権主義的行為*。この行為によって合気会不信が生じている海外組織はいくらでもある。いわば日本国民の税金を使って日本不信を巻き起こしているに等しい。実質的に青年海外協力隊員やシニアジャイカの合気道指導者選出は合気会であり講習も合気会本部で行われている。つまり合気会の独占事業である。この業務を担当したある合気会幹部は「ビールなんか買った時は無い、食い物もいくらでも届けられる」と私に豪語したものである。(*ただし一部のシニアジャイカ派遣指導員と付け加える)公平公正など存在しない。JICAの丸投げがこういった人物そして海外でのトラブルを起こしている。
 合気会公認の日本人指導者が現地指導者と癒着し合気会本部で定められた金額とは別口に昇段試験を受けるため千ドル以上の金を求めたり、昇段協力費などと称して千ドルー7千ドルの金を求める。ビデオ審査などによる癒着審査と多額の個人寄付。合気会本部の究極の集金手口「任意や随意」の習慣が海外の一部海外指導者にも波及して当然のように行われている。実質的買収賄体質でしかない。
 日本政府や民間支援のプロジェクトで予算がありながら現地からの帰国時には白い封筒を受け取る。渡航滞在費や指導費を平然と請求した者もいる。いわば二重取りであり金銭感覚の麻痺した裸の王様である。
 合気会合気道をIOC国際オリンピック委員会が後援する「ワールドゲーム参加資格公認」とし、その国の教育やスポーツ省に登録し合気会以外の合気道を締めだそうとする愚かな派閥行為。このシテムを悪用してほぼ名義だけの道場組織をつくり現地オリンピック委員会と組み認定を受け、国から金を騙し取りその委員と山分けするばかりか、登録団体以外の合気道は講習会場など公共の施設使用を制限されたり、多額の使用料や講習会料の一部を納めさせたりの暴力団並みの組織運営をしている合気会合気道傘下の団体も存在する。さらには組織委員会のお墨付きで外国入国ビザを取得し出国させるビジネスに悪用されている事実もある。一件1万ドル、現地では大金である。
 また、試合の無い合気道は国によっては「体育、スポーツ」として認められない国も多く、そのため援助金申請や施設などの利用のため「合気道トーナメントシステム」を組み立てスポーツ登録し、かろうじて活動している国も存在する。こうまでしなければ昇段試験の審査資格のある指導者を呼ぶことなどとても出来ないというのは現地指導者の言い分である。合気会合気道の「試合なし」の理念を歪めて得た資金が昇段審査料などとして合気会本部に流れている。この矛盾は当然承知のはずなのに改善されたという話は一切聞かない。

 私は世界各地の合気道家からいくつものケースを告白されている。そのつど説明するのは「合気会にだって真剣に合気道の世界的役割と健全な発展を望む師範や指導員は存在すると信じる。しかし古い体質の者たちがこれら若手の昇段の鍵を握っている以上、上下関係の中で意見も言えず潰されてしまう事も有りうる、現状を無視した絶対服従の姿、行為をすることでしか生き延びれない状態の中で同情すべき点もある。五年も待ったら解決するだろうが悪習が継承されるのが恐ろしい」と非難でも擁護でもない複雑な説明を返してしまう。先に紹介した某氏のメールのように道主が涙を流さんばかりの忠誠心を表現する事によって存在が許される家元制度は外国人にはなかなか理解できないのである。

 世界中の合気会以外の合気道家諸君、何ゆえ多くの指導者や合気道家が離脱したのかも考える事なく、一方的に合気会以外の合気道家を「贋金作り」と罵倒する合気会のあり方に沈黙していいものだろうか。これ以上合気会合気道主催の講習会等に参加する必要もあるまい。この件に関しては道主にEメールと配達証明郵便で抗議しているがなんら反応も無いところを見ると道主も同意しているのであろう。つまりは「合気会以外の合気道は合気道ではない」(立場から言えば最もであるが)という事である。手元に届けられていないという事も考えられるが。
 合気会合気道以外を「贋金作り」と断言した以上、世界の合気会合気道関係者に「流派団体を超越した合気道家の講習会参加を歓迎します」などの美辞麗句を並べることはさせず「世界の合気会合気道講習会には合気会会員しか参加させない」と明確かつ厳格に世界中の合気会傘下に通達を出すべきであろう。それが出せないのであれば「大切な大見出し」を底支えしている合気会以外の合気道家にもっと敬意を持つべきであろう。その心が合気道でなかったのか。
 そして世界中の会気会合気道傘下の諸君、合気会本部や世界連盟からの納得の行かない金銭の要求、昇段審査に関する不正や疑問など、その指導者の名を上げて抗議すべきである。また合気会合気道以外の参加なくして講習会維持は難しいと訴えるべきである。米櫃の心配をしては過ちの始まりとなる。
 シニアJICA派遣指導員に関しても日本のJICA本部に抗議すれば良い。HPはあるし多様な言語にも対応する。また海外在住日本人指導者の不当な行為は所在地の在日本大使館や領事館の文化広報領事に情報を伝えれば良い。派遣国の国民感情を逆なでする日本文化指導者など放って置く事もあるまい。
 
 世界には100ドルの審査登録料が払えずに白帯のままの合気道家がたくさん存在している。技は無くても合気会の昇段は金があったら出来ると諦め顔で云う合気道家のなんと多いことか。私が接した合気道家のなかでこの金銭がらみの苦情が最も多い。合気会内部からの声は一切期待できない。これらの合気道家を救うには世界の合気道家が疑問や不正に対して声を上げるべきである。
 
 私は過去に40名近い合気会昇段者を一括申請し、無試験で推薦料として二倍の金を支払い合気会有段者免状を受理したときが有る。申請書や推薦料に関しては領収書も無く指定された東京近郊の喫茶店の一隅で手渡した。免状は手元に届きはしたが合気道新聞に発表もされず合気会の免状が実に価値のないものに思えた。第一、日本館は合気会ではないのだからこの人物の行為には疑問があった。この人物に関しては世界中でこの疑問が沸騰しており「俺が申請できるよ」と持ちかけられ「合気会の免状はそんなものかな」と事実確認の意味から誘いに乗ってみたわけだが「実に無駄金」を使ったものである。もちろんその後この人物とは私から縁を切らしてもらった。ただし明記するが故斉藤守弘師範や小林保雄師範など日本館とご縁のある先生ではない。
 こういった一部の合気会古参指導者や役員の拝金主義の連鎖反応が各国指導者の金銭感覚を麻痺させてしまっている。まさにネズミ講に等しい合気会組織は金を支払える者が生き残り滞った者は脱落するだけの組織に成り下がった。こういったトラブルの要に存在する古参指導者や役員を炙り出さない限り世界中の善良な合気道家は益々離脱していく事であろう。

 合気道には罪はない。純粋に稽古をする門下生にも罪はない。揉み手をしながら合気道界の旨みにすがり付くこれらの古参指導者や役員をいつまで無視し続けるのだろうか。余りにも世界の状況に鈍感なこの裸の王様集団「財団法人合気会」にそろそろ文部科学省などの認可行政団体がメスを入れても良い頃だろう。とくに海外における合気会合気道所属のシニアジャイカ派遣指導員のトラブルをJICAも充分に調査すべきである。シニアジャイカ派遣指導員からの報告を現地情報とし、受け入れ国側の反応を深く調査せず「手前味噌」となって物事が運んでしまうのが原因である。JICAの報告書やHPに掲載される現地からの報告記事などを読むと驚くばかりである。
 シニアジャイカの派遣待遇は庶民が聞いたら事業仕分け筆頭に値するほどである。とても「ボランティア」などではない厚待遇でありながら現地感情をまったく感じ取れないお邪魔虫も多い。ジャイカと合気会の丸投げ馴れ合いも大きな問題である。
 今流で言うなら一人のKYシニアJICA派遣指導員によって6千人ものメンバーと40年以上の歴史を持つ組織が行き場を失ってしまっているモロッコの例などはもし彼らが抗議行動を起こしたら反日運動に匹敵する問題を含んでいる。家族親戚を加えればその人数4−5倍ではきかない。そんな問題に対応できる覚悟は合気会やJICAには有るのだろうか。しかもこの人物は元海自幹部現在は予備とはいえ陸自の2等陸尉である。(現在はJICA の任期を終了し、予備自衛官としての立場も不明)
 モロッコ合気道の開拓者であるアラウイ先生。数年前に病気を患い奇跡的にまた道場に戻られたが、そのアラウイ先生の恩恵によってモロッコで立ち上がれたこの人物によって屋台骨を崩されているモロッコ合気道。同じ日本人として肩身の狭い思いである。
 
 私は本年2月にモロッコの合気道連盟に招かれて指導のため訪問した。帰国時に謝辞したにもかかわらず「モロッコホスピタリティー」と言ってアラウイ先生、幹部の方々が飛行場まで見送ってくれた。飛行場で振り返るとアラウイ先生の姿が見えない。私は他の幹部に挨拶した後アラウイ先生を探した。先生は離れた人影で目を潤ませていた。現在の状況の解決策も見出せないなか、ひたすら話を聞くしか力のない私に絶望したとは思えない。長い間、尊敬し、尽くしてきたフランス滞在の日本人指導者の手の平が既に返っている事を自覚し、組織幹部からは方向転換を迫られても涙を噛んで耐え忍ぶアラウイ先生の心は唯一「イスラムの教えは争わない事、アッラーにお任せしましょう」である。過去のフランス植民地としての国民性が反抗どころか個人の意見すら控える人間としてしまったのだろうか。モロッコ王国は独立国である。フランス任せではなく合気会本部から幹部が出向き「話を聞いてやる」事は出来ないものか。

 私は「贋金作り」の問題を収めていた。しかし目に余る合気会合気道の一部指導者、役員の愚かでお粗末な行動を開祖の膝下で暮らした者として見逃すことが出来なくなった。しかしこれでも詳細は引き出しに収めてある。 
 深夜、御み足摩りの途中、いきなり起き出した開祖が、凛として東京の方向を見て正座、過去の裏切り者や将来の行く末を甲高い声で叫んだ岩間での姿を忘れない。私は合気会の会員ではないが開祖の弟子である。一合気道家として意見を云わせていただいた。
 世界には素晴らしい指導者や合気道稽古者がいる。そんな人々が不当な摂取に苦しみ行き場を失いーーやがてそれは日本人日本国不信につながる事を私は危惧している。


     
               平成22年4月開祖御入神の日 記
                      独立道場 合気道日本館総本部
                            館長  本間 学 

 




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