この町も川沿いの町で名前はマハナンダ川。私が川岸で眺めていると住民が英語で声をかけてきた。いろいろ話していると「まずお茶でも」と誘われご馳走になる。気になっていた川の増水などについて聞いてみた。やはり季節外れの増水でラジャシャヒ市と同じ問題が起きていた。雨などが降ったら予想以上の増水となり大洪水となる。稲作中心の農業にとって大ダメージであり、小作人はもちろん、さらにその下で生きる人々の糧を奪っていると話した。彼は首都ダカの大学教授でこの家は彼の実家であった。
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川舟は大切な交通手段
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お茶に誘ってくれた夫婦
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川原で遊ぶ子供たち |
さて一見のどかな町であるがインド国境をはさんでドラッグや武器の密輸、人身売買など治安の弱さから無法地帯を控えている。無法地帯の原因は軍人や警察官に対する住民の信頼がない事、それは軍人や警察官の質の悪さにあり、この悪い信頼関係が無法地帯を生み出してしまっているという。この信頼関係改善を図ろうと米軍コンサルタントのもとバングラデッシュ陸軍、地元警察、現地NGOなどが一体となって改善に取り組み始めていた。「コミニテープロジェクト」を通して一体化を計ろうというわけである。我々には聞きなれた言葉だがこの地域では始めての事という。
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バングラデッシュ兵士たちとルニー大尉、本間館長
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住民と気軽に話すルニー大尉 |
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プロジェクトの学校 |
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フロア工事などは手作業
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トイレの増築工事 |
このプロジェクトのチーフコンサルタントのルニー大尉は私服でありもちろん武器の携帯もない。このミッションはもちろんバングラデッシュ政府とアメリカ政府の合意の上でしっかりと身分を名乗っての活動であり名刺には米国陸軍と明記されプロジェクト名、両国の国旗が刷られている。民間コンサルタントでは安全の保障が無いため危険時に適応できる訓練を受けたコンサルタントとなれば軍人と言う事になる。それでも常にバングラデッシュ陸軍の警備兵が同行していた。
官民合同プロジェクトのひとつ公立学校改修工事の現場にいく。バングラデッシュ米国大使館高官も参加し、最終的にはフロアーの交換、ペンキ塗りなどを民間NGOと合同で行ない、今後は隣接する校舎を取り壊し新校舎を建築する計画であるという。
治安の悪さは住民自身の社会意識の低さも大きく影響している。そこでまずは住民の意識改革を目指そうと地元NGOの青年たちが生活改善民俗歌劇団を始めた。
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歌劇団NGOオフィスに
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歌劇団の皆さんと記念写真
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歌劇団の練習施設に向かう。このユニークな生活改善啓蒙法が成功すれば東ティモールなど他の国にも大変参考になる事と大きな興味があった。25歳前後の男女15人余りが蒸し暑い練習場で汗だくで練習をしていた。結成から二年程度である。家庭内暴力、ドラッグ、子供に対する教育拒否、レイプ、老若のコミニケーションなどを歌劇とコメデーで約一時間演じる。民俗楽器、各自のスカーフ、4本の竹がすべてのセット。毎月給料も含め1000ドルで運営しているが大変という。一時間余りのショーを見学したが「素晴らしい」の一言に尽きた。電気も無く娯楽も少ない部落の旅回り劇団は部落住民の意識改革に大きな影響力を持つ事であろう。ショーの終わりにルニー大尉がバングラデッシュの唱を歌い私が竹の棒を持って踊る飛び入りに多いに湧く。
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語りかける本間館長
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唄うルニー大尉 |
私が以前ルニー大尉に「こう云った感動的ミッションをなぜもっとメディアに流さないのか、米軍の良いイメージも積極的に広報するべきだけど」と訊ねた時がある。彼は「たとえば私たちが田舎に学校を建てたとする、すると直ぐに米国とそりの合わない国が道路を直したり宗教的公会堂を建てたりーーそうなってしまうとその国の人々は支援を利用する事ばかり覚えて自分たちで生産しようとはしなくなる。そうすると支援の意味がなくなる。そんなわけでアメリカ国民はもとより世界の友好国の人々でも我々の活動は余り知らされていない」。私は彼の言葉を裏付ける幾つかの事を思い出した。
東ティモールにおける中国の「贈り物」攻勢。空からみた首都デリにはいくつもの大きな派手な赤い屋根が見える。TVは中国、台湾のチャンネルが競うように放映されている。台湾も負けていないようで各分野に入り込んでいる。当然そこには収賄など汚職の陰が存在する。この赤い屋根の建物は途上国に実に多い。古いジョークだがコカコーラと白で書いたらよく目立つと思う。
インドの大津波被害の支援をしたイタリアの再建部隊の幹部が「隣の部落はドイツ支援で部屋が二つ、俺の部落はイタリア支援で部屋が一つ。いらないよ他の国に頼むから」と平然と言う部落長に驚いたという。
同じく、一瞬にして生活のすべてを失った漁師。それまでは小舟で漁をし、椰子の葉をかけただけの小屋でその日暮らし。しかし津波の後、衣類や食料、屋根用のブルーシート、生活用品Etcなんでも手に入るようになった。それぞれの国の支援団体が物資を持ち込む。漁など馬鹿らしくてしていない。シンガポールで現地支援から戻る途中の日本人支援団体の人の話。支援や援助といっても様々な思惑、そして予期しなかった弊害をもたらす時もある。
数日の滞在であったが忍び寄る地球温暖化のなかで生活の場を失う人々、生活に追われ社会意識の希薄なところで暗躍する犯罪やテロ集団。富める国は余りにも富、貧の国は底なしである。まずはこの歪みを改善しなくてはすべての問題は収まらない。腹いっぱい食べている人間が貧困者に語る言葉はあるだろうか。一つ明るい事、それは現地の若者たちがそういった問題に取り組み始めている事である。私が先に紹介した歌劇集団に世界のメディアが注目してくれ支援に結びつくよう活動を始めている。
夕方、一人で3時間ほど歩く。車での移動では見る事の出来ない路地などに入り込める。仏教国であった頃の面影を残す古い寺院や塔が残っている。古い寺を覗いていると近所の子供が鍵を持ってきて中を見せてくれた。中は崩壊しきっていたがかなり豪華であったと思われる。歴史有る文化財が野放し状態で朽ちるのを待っているのは残念である。私は子供たちに礼を述べて別れたが、これが観光客に慣れた国の子供ならすかさず金を求められるがここでは可愛い笑顔が手を振ってくれた。
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鍵を開けてくれた |
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荒れた寺院内 |
ホテルを早朝5時出発帰路に着く。大きなオレンジ色の朝日。道路は格好の稲干しの場、農民たちが忙しく働く。ヤギ、羊、鶏、アヒル、白牛、食用牛、犬、すべての動物が人間と一体となって朝を楽しんでいる。道路はそこで生活する生き物すべての天国である。しかし70キロで行き交う車にとっては迷惑なはなし。精一杯クラクションを鳴らし追い払いながらの運転となる「轢いたらどうする?」「ひき逃げだね、下手に停まったらアヒル一匹100ドルくらい請求されるよ、店じゃ5ドル。払うまで人が囲んで動けなくなる」タクシー運転手の言葉にのどかな朝の雰囲気が飛んでしまった。文化、経済の発展と既存のライフスタイルとの融合発展、難しい課題を私たちは抱えている。
平成20年7月16日記
日本館総本部
館長 本間 学 記
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