館長コラム◆◆  

ミンドナオ退避指示ドキュメント   
 


ミンドナオ州立大学で「武は矛を収める事」と平和の大切さを説く
日本館総本部本間館長 (平成20年2月写す)

日本館総本部AHANインターナショナルはフィリピン南部ミンドナオ島のイリガン市を中心に合気道を通した平和活動に努めています。現地ではAH ANミンドナオ世話人で合気道の現地指導者であるアバヤンチャ指導員を中心に活発な活動をしております。(これまでの活動に関してはこの報告の最後 のリストをご覧下さい。) また、平成20年8月からは日本館総本部派遣指導員としてマリウス.フレンチ指導員がネパールから転任し指導しておりました。


本間館長とアバ ヤンチャ指導員(イリガン市にて平成20年2月写す)



地元の高校生に指導するマリウス指導員


しかし9月27日私が日本での行事を終えミンドナオ出発の成田空港で変事を知り急遽計画を取りやめ、マリウス指導員に退避指示を出しました。私は武 道家であり宗教家でも政治家でもないためこの報告はどちらに軍配を上げるものではなく、合気道を稽古しようとするものは等しく私の門下生であるとの私の信念で今回の報告したいと思います。

この若者たちのためにも平和を

ミンドナオでは長らくフィリピン政府とイスラム勢力「モロ、イスラム解放 戦線(MILF)」の対立からの武力衝突を繰りかえし最近は停戦をしていま したが8月ころから和平交渉が暗礁に乗り上げていました。しかしそれは市民生活に影響を及ぼすほどでは無かったのですが、アバ指導員からの悲痛なメールが届いていました。メールでドキュメントします。(一部削除してあります)

8月17日
先生、マリウスは今は安全です。しかし、イリガンでは合気道道場が閉まって五日目になります。 マキシマムホテルは多くの仕掛けられた爆弾によって爆破されました。先生、私たちの為に祈ってください。アラン学校は五日間閉鎖されています・・・・。

8月18日
親愛なる本間先生・・・・。私たちは今カガヤン デ オロ市にいます。多くの市民が死にました。私の生徒の一人 Brayan Gografo はKauswagan で立ち往生しています。また、たくさんの子供達も爆弾の犠牲になりました。まだ、爆弾は町の何処かに仕掛けられています。私はマリウスの安否を気遣い彼にその事実を知らせ、退避をすすめ、午前1時ころ出発、夜明け近くにココに着きました。000ホテルです。平和な暮らしをイリガン市に・・・。沢山の子供の耳が削ぎ落とされ苦しんでいます。助けて先生・・・・・。

多くの犠牲者があり近くのカガヤンデオロ市に退避しているとの報告がありました。またマリウス指導員からは8月10日には合気道のクラスがすべて順調である事の報告の後に突然マリウスからーーー。

8月18日
現在、私はアバと一緒にカガヤン デ オロのホテルの中にいます。00の家族、2、3人の警備員と一緒に。私たちはココに昨日の夜に来ました。現在、私達は安全です。昨日、イリガン市では仕掛けられている沢山の爆弾のうちの2つが爆発しました。そして・・・・7人が犠牲になりました。アバは私たちがイリガン市に留まる事を危険に感じ、イリガン市が安全になるまで2、3日カガヤン デ オロに滞在する予定です。これが今私の言えるすべてのことです。とにかく、ここに退避している限り心配することはありません。アバの携帯はつながります。またメールします。

との緊急避難の報告が入っていました。その後沈静化したためイリガンに戻り指導を始めたとの報告があったのですがマリウス指導員より、

9月21日
先生、何かがまたイリガン市で起こりました。アバは私の安否を気遣っています。私達は再びカガヤン デ オロ市に一緒に退避します。アバは先生の訪問をキャンセルするように私に伝えてきました。また、連絡します。

そしてアバからーーーー

9月30日
先生、悪い知らせです・・・・・。9月30日6時にイリガン市のPryce plazaで16人の人が爆風に巻き込まれ命を落としました。神のご加護を・・・。エミリー先生、みなさんによろしく伝えてください。

との連絡。イリガン市での大きな講習会指導のためすでに日本に立ち寄っていた私は電話等で状況確認を試みても難しく、成田空港で出発前の最終確認で現地と連絡が取れ、現地入りは命にかかわる危険な状態であると判断して講習会を中止、直ちにマリウス指導員の国外退避を指示しました。10月、11月と比較的平穏の連絡が入っていましたが、

12月18日
私たちの町はまたUni CityとJerrys Sopping Mallの二ヶ所に仕掛けられた爆弾が破裂、3人が死亡、44人が負傷しました。ショッピングモールは貴方も写真を写したところです.ーーーー。高校と大学は指導を続けていますが町の道場は危険なため仕方なく閉鎖しました。 この写真はジョアンさんや生徒たちとホームレスの子供たちに食事を与えているところです。0000でも指導しておりこの子達の多くは近所の者や家族に幼児性的虐待を受けた女児たちです。
 私たちは10月からホームレスに食事を与え、昨日も食事を与えていました。そしてこの事件です。私たちの国はどうした事でしょう。涙が止まりません。
 私たちの夢は平和道場の開設です。道場が完成すればこういった子供たちにもっと安らぎを与える事が出来ます。子供たちへの平和教育こそ今一番大切なことです。神のご加護を

 このメールドキュメントを公開したのは現実をそのまま読者に伝えるためです。
ただし一部は安全のため削除してあります。
一般市民が逃げ惑う現場の悲惨な様子が伝わってきます。そういった非常事態のなかで子供たちの世話をするアバと若者たちの叫びが聞こえます。この現実に合気道が唱える「愛と平和」ましてや合気道の技など「なんら無力である」事をいやでも認識させられます。なんの抵抗もない相手を投げ飛ばし「僅かそれだけの事」で指導者を気取っているだけの合気道家に知っていただきたい現実です。
 指導者は自己の武道家としての地位に甘んずる事なく、積極的にこういった現実に目をむけ「何が出来るのか、どう生きればよいのか」を門下生と常に考える必要があると思うのです。道場に集まった多くの門下生を前に神や平和を論じ気を論じ「先生」と呼ばれ酔いしれるより、真正面からこういった現実と向き合い「世界の合気道家が何が出来るか」を考えるモードに設定されたときにこそ「愛と平和の武道」を説く資格があると思うのです。
  
 次の写真は関係者の安全上ボカシてあります。


安全優先のため最後のクラスとなった



道場がなくなってーー女子合気道学生の皆さん



稽古は出来なくともAHAN活動は出来る



食事に並ぶ人々



ホームレス支援のアバ指導員



食事を受け取る子供たち



虐待女児収容施設を慈善訪問したアバ指導員一向


ミンドナオ島の片隅でクリスチャン、イスラムの分け隔てなく合気道を通しての平和活動リダーとして命がけで活動するアバ ヤンチャ指導員を私ども日本館総本部は全面的支援を続けたいと思っています。ミンドナオの道友たち、物事を冷静に判断し、紛争に巻き込まれる事無く、互いの命を尊重し少しでも早く平和を取り戻してください。争って残るものは双方どちらにも存在しません。私はあなたたちの準備が整い次第すぐに再訪し、計画中の平和道場建設の調査に入ります。

     
日本館総本部
館長 本間 学 報告

付記:
 
 私はこの記事において、イスラム勢力「モロイスラム解放戦線(MIFL)」が起こしたテロとは断定していない。地域紛争においてはあらゆる手段を通しての争いの手口が存在する。武器や資金の支援調達のための工作テロも考える事が出来る。私にはこの地域のイスラム教の友人がたくさんいる。そしてキリスト教の友人も。ともに彼らは平和を望んでいるのは当然である。

 


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