館長コラム◆◆  


■ヨーロッパの合気道浪人たち

 各国の講習会訪問で会員証の種類の多いのに驚きます。会員証といっても名刺大のカードではなく、写真や、級段、講習会参加の記録などの合気道稽古歴証明書といえるパスポートサイズのノートブックの事です。米国では合気道パスポート、日本では国際有段者証などと呼ばれる物です。私は稽古帳と呼びます。
 合気道といえば合気会であったのが、手からこぼれるように他の合気道団体が分派し、或いは全く別の合気道団体が育ち、多種多様な稽古帳が発行されました。
 訪問国によっては講習会終了後10種類以上の稽古帳にサインを求められることすらあり、実に多くの小さな合気道団体が存在する事にいつも驚かされます。
稽古帳に記された指導者の名前を見ますと、すでに世を去った師範や、常連の師範が突然消え別の師範の名前が続いたりと其々の道場や団体の複雑な事情が一冊の稽古帳から知ることが出来ます。

 最近訪れた国で、ある合気道家の稽古帳を見ました。この人は12年間同じ稽古帳を所持し、2段までの認定印が押され、12年間に74の講習会に参加し、それぞれの講習会指導者のサインがあり、ヨーロッパ、米国、日本の合気会高段指導者の名が列挙されていました。2段位までの承認は斎藤守弘師範でしたが、稽古帳は合気会発行ではありませんでした。以前この合気道家とそのグループは斎藤守弘師範率いる合気会合気道岩間流の門下生でした。
 斉藤守弘師範没後この合気道家達は、合気会にも、斎藤守弘師範のご子息、仁弘先生が合気会から独立して始めた神信合気修練会にも所属する事無く、孤立した状態にある「浪人中」の合気道家となりました。
 実は、私が故斎藤守弘師範やご子息仁弘先生の記事をこのホームページに掲載する関係で、旧岩間流の方々から色々な相談や質問が来ます。その関係でこういった合気道家がヨーロッパを中心に世界各国にいる事は事前に知っていましたが、その稽古帳を実際に手にとって開いてみると事の重大さが理解できました。
 合気会は、合気会師範であった故斎藤守弘師範が海外で杖や木剣の独自プログラムによる認可状を発行していた事を、公然の事実として黙認の状態でした。これは関係者誰に聞いても否定は出来ない事実です。また故斉藤師範が合気会の師範であった事は、斉藤師範を通して世界中の合気道家に合気会有段者免状が発行されている事から、これもまた否定できない事実です。
 この合気道浪人達は、ただ純真に指導者に従い合気道を稽古していた門人です。斎藤守弘師範の死去後、ご子息も合気会から離れ、それまでの斎藤守弘門下は宙に浮きました。多くの守弘門下は合気会に留まったのですが、合気会に移籍できない者も出てきました。要領よく合気会の段位も同時に受け、合気会の国際有段者証を手に入れた者は何の問題もなかったのですが、その申請のチャンスがなかった者たちに疑問と不満が噴出しました。特に一部の指導者に限り恵まれた条件で移籍が出来た、という不満は大きいようです。
 私はこの浪人たちに「それでは仁弘先生に付いたら?」と尋ねましたら次のような答えが返ってきました。「私達の筆頭師範は斎藤守弘師範でした、ご子息仁弘先生には無関係です。ましてすでに合気会を離れていますから。私共は合気会の合気道を習ってきたと信じている。私達は段位が下がっても合気会の免状に移籍したい。自分で道場も運営しているし、いまさらゼロからとは生活に関わる」と訴えました。
 また「私達門下生は指導者にイエスと云うしかなかった。合気会で何も手を打たなかったというのは容認していたという事、それが一瞬にして、私共がこれまで投資した金と時間と苦労を無益な物としてしまった。これは合気会に責任が有ると私は考えている。会社の役員が会社規約に反する行為を行なっていることを確認していながら、処分もせず黙認し、関係者に損害が出たら当然会社側にも責任が有るはずです。被害者の私達が切り捨てられるのは理解できません。同じ状況の人たちに呼びかけ法的対策を集団で行おうと思っています。」
 私はこの話を聞き本当に残念な事と思いました。お金だけの問題ではないでしょうが、稽古歴12年のこの方が、級から2段になるまでの月謝、そして74回の講習会に出席した講習費、遠い場合は顎足、ホテルの出費まで含め、費用を算出したら大変な金額になり、それだけでも彼らの不満が理解できます。

 この問題に関しては亡くなった斎藤守弘師範一切の責任と処理していますが、結局は合気会にその管理指導能力がなかったことであり、責任を逃れる事はできないと私は考えます。特に同じ岩間で生活し守弘師範の恩恵を受けた高段者たちは事実を充分に知っていながら、今回の混乱を事前に防ぐ事ができなかった事の責任問題も含め真剣に考えるべきでしょう。中には行動を供にしたり守弘師範に経営助言を与えた高段者の名もご子息仁弘先生が明確に記憶しています。この中には合気道の国際的健全発展を舵取りすべきお方も含まれています。日本の合気道界に「現在のような問題が生ずる事を知りながら放任していた。今では守弘が一生かけて築き上げた組織を苦労なく手に入れ平然とその座に君臨している。棚から牡丹餅だろう」と流布されているのも、高段者の方々が何の責任を感ずる事も無く岩間道場新体制幹部となっている事への大きな不審の現われでしょう。「我々は岩間道場を責任を持って守っている」となるでしょうが、それはそれ以前の道義的責任を果たしてからの発言でしょう。
 今、ヨーロッパで噴出している浪人達の不満に対して、対策と責任を明確にすることを怠ると、どちらに転んでも将来の為にはよくないでしょう。
浪人たちが損害賠償などの集団訴訟でも決心したら金額、規模の大きさから興味を持つ弁護士達も現われるでしょう。敗勝訴に関わらす訴訟そのものが、多少は日本国民の税金や企業団体の恩恵を受けている財団法人合気会として大きな汚点となってしまうでしょう。ハイテク時代の今日、浪人たちが決起するにはそんなに障害はないのです。
 合気会は大きくなりました。組織が大きくなっても責任体制が軟弱のようです。指導師範や役職幹部の組織的ゴタゴタで門下生が泣きを見るのは、合気会の伝統的悪体質であり、「それは各師範が独自に行った事」と逃げ切るのは合気会の常套手段であり、管理責任からの逃避に過ぎません。純真に求道した各国の合気道家に寛容な対処を考慮することが急務であり、積極的な話し合いを持って、円満に解決する事が「世界の合気道」の有るべき姿と思います。

       平成17年3月24日
日本館 館長 本間 学 記

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